CO2挿入法による安息香酸誘導体の製造プロセス開発

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AGCは、ラボで反応が成立することだけでなく、原料調達性、設備適合性、操作性、安全性および環境負荷を総合的に評価し、工業化につながるプロセスの構築に取り組んでいます。本記事では、その一例として、ニッケル触媒を用いたCO2挿入反応による安息香酸誘導体の製造プロセス開発を紹介します。

安息香酸誘導体の用途と従来製法の課題

安息香酸誘導体は、医薬品、農薬、半導体材料、電子部品、機能性樹脂など、幅広い分野で使用される重要な化学品です。そのため、対象化合物を得られることに加え、安定した原料調達、製造設備への適合、作業安全性、品質管理および環境負荷を考慮した製造プロセスが求められます。

安息香酸誘導体の代表的な合成法には、金属ハロゲン交換反応と一酸化炭素挿入反応があります。金属ハロゲン交換法では、アリールブロミドまたはアリールヨージドをn-BuLiやi-PrMgClなどで有機金属種へ変換し、CO2と反応させます。一方、一酸化炭素挿入法では、アリールハライドをパラジウム触媒存在下でCOと反応させてエステル体とし、その後の加水分解によって安息香酸誘導体へ導きます。

従来法1(金属ハロゲン交換反応)・従来法2(一酸化炭素挿入反応)の反応スキームと課題の比較

いずれも実用化された反応ですが、製造プロセスとして採用する際には個別の課題があります。金属ハロゲン交換法では、強塩基性試薬の取り扱い、低温条件への対応、基質適用性および原料コストが検討事項となります。一酸化炭素挿入法では、毒性を有するCOの取り扱い、高圧反応設備の要否、パラジウム触媒のコストならびに残留金属管理が重要です。こうした背景から、より実用性の高い代替プロセスが求められていました。

AGCが構築したニッケル触媒CO2挿入プロセス

AGCは、工業スケールでの適用例が限られていたニッケル触媒によるCO2挿入反応に着目し、反応条件の最適化と工業化検討を進めました。安価で入手しやすいアリールクロリドを出発原料とし、CO2を炭素源として利用する点が本プロセスの特長です。

想定される触媒サイクルは、以下の3段階で構成されます。

  1. 酸化的付加:Ni(0)がアリールC-Cl結合へ酸化的付加し、アリール-Ni(II)-Cl種を形成します。
  2. CO2挿入:Ni-C結合へCO2が挿入し、ニッケルカルボキシラート種を形成します。
  3. 触媒再生:カルボキシラート生成物の形成後、還元剤の作用によりNi(0)が再生します。
AGCが確立したNi触媒によるCO2挿入反応プロセスの概要

製造プロセスとしての特長

本プロセスは、原料、設備、操作性および環境負荷の観点から、従来法に対して次の特長を有します。

  1. コスト・持続可能性を考慮した原料・触媒の設定:出発原料として採用したアリールクロリドは、アリールブロミドやアリールヨージドと比較して調達性およびコストの面で有利です。また、触媒にはパラジウムではなくニッケルを採用しました。パラジウムは白金族金属に属する希少なレアメタルであり、価格変動や供給リスクの影響を受けやすい一方、Niは比較的豊富に存在するため、触媒コスト低減および資源持続性の観点で有利な選択肢となります。
  2. 設備適合性と取り扱いやすさ:本反応の条件は穏和な反応条件で実施できるため、多様な官能基を有する基質に適用でき、極低温という設備条件の制約もありません。常圧から微加圧下でCO2を使用するため、高圧対応の特殊設備への依存を低減、一般製造設備で実施しやすいプロセスです。
  3. 環境負荷を意識した処方設計:一炭素増炭反応の合成素子として、CO2を採用しています。CO2は従来、排出物として扱われることが多い物質ですが、本プロセスでは炭素資源として有効利用しています。CO2を炭素源として活用することにより、化石資源由来原料への依存低減に貢献できる可能性があります。

本技術を適用した製品は、2025年から商用製造されています。

まとめ: AGCは、ニッケル触媒によるCO2挿入反応を安息香酸誘導体の製造プロセスへ展開しました。本プロセスは、アリールクロリドとCO2を活用し、原料コスト、設備適合性、安全性および環境負荷を考慮して設計したものです。ラボ検討から工業化までを見据え、実製造での運用を意識したプロセス開発を進めています。

AGCファインケミカルズでは、医薬品・農薬中間体をはじめとする有機化合物のプロセス開発および受託製造に関するご相談を承っています。
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