ビルディングブロック法による含フッ素多置換ベンゼンの製造

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AGCはフッ素樹脂・ガス溶剤・含フッ素医薬品製造など、フッ素化学分野で培った知見を活かし、含フッ素多置換ベンゼンの製造という難易度の高い課題に取り組んできました。本記事では、その一例として、ビルディングブロック法によるAGCのアプローチと実用例をご紹介します。

含フッ素多置換ベンゼンの製造の課題

近年、フッ素含有医薬品・農薬原体の化学構造の複雑さが増し、その原料あるいは鍵中間体として含フッ素多置換ベンゼンが設定される事例が増えています。その一方で、含フッ素多置換ベンゼンの製造は、複数の置換基を特定の位置に安価に導入する製造法が求められ、難易度の高い課題のひとつです。

その代表的なアプローチとしては、①フッ素置換ベンゼンを出発原料として多段階工程を経て所望の多置換ベンゼンを製造するアプローチ、②多置換ベンゼンのフッ素化反応による製造方法などが考えられます。ただし、①は原料の入手性が低い、高価格となりやすい、あるいは多段階工程を経ることになりコスト面で課題が残る場合があります。また、②のアプローチの場合は、多置換ベンゼンへのフッ素化反応であり、位置選択性の制御が難しい、あるいは、フッ素化剤が高価でありコスト面での課題が残る場合があります。これらのアプローチは実用的であるものの、複雑な置換形式の含フッ素多置換ベンゼンを低コストで製造する点では課題が残ります。

従来アプローチ①フッ素置換ベンゼンからの多段階製造、②多置換ベンゼンのフッ素化による製造の比較

 

ケーススタディ:2-フルオロ-4,5-ジメチルフェノールの製造法開発

一つの事例として、含フッ素多置換ベンゼンである2-フルオロ-4,5-ジメチルフェノール(下図1)の製造法開発について紹介します。本化合物は一見分子量も小さくシンプルな構造ではあるものの、水酸基、2個のメチル基、フッ素原子の4つの置換基を有する多置換ベンゼンであり、工業レベルで安価に製造する上では難易度が高く、上記アプローチ①と②の方法論ではコスト面で課題が残るケースでした。

2-フルオロ-4,5-ジメチルフェノール(化合物1)の構造式

 

AGCのビルディングブロック法によるアプローチ

そこで、AGCは、上記アプローチとは異なる合成戦略としてビルディングブロック法によるアプローチを採用しました。すなわち、当社が保有するフッ素原料であるクロロジフルオロメタン(R21)を出発原料として設定し、鍵中間体となるビニルケトンへと導きます。ビニルケトン(3)とβ-ケトエステル誘導体(2)を反応させて環化、脱炭酸を経てシクロヘキサノン骨格を構築し、続いて脱フッ化水素反応(HF脱離)を伴った芳香化によるベンゼン環の構築を行うことにより、所望の位置にフッ素原子が導入された多置換ベンゼン(1)の合成経路を設計しました。

R21(CHCl₂F)を起点とした逆合成スキーム

 

AGCは本合成経路による製法開発を実施し、特許※1で開示された以下の3工程の合成ルートの開発に成功しています。工程1では、クロロジフルオロメタン(R21)をビニルエーテル誘導体(4)と塩基性条件下でシクロプロパン化を行い、メトキシ基、フッ素原子および塩素原子を有するフッ素化シクロプロパン中間体(5)を取得しました。工程2では中間体5をキノリンおよび水の存在下で加熱することにより、熱分解を経てフッ化ビニルケトン中間体(3)を製造しました。得られた中間体(3)をβ-ケトエステル誘導体(2)と塩基条件下で反応させ、アルドール型環化、脱炭酸および芳香化を経て、目的の化合物を純度良く高収率にて製造可能なプロセスを開発しました。

3段階合成ルート(化合物4→5→3→2→1)

 

本課題解決のポイントは、R21のようなフッ素原料に関する当社ノウハウ・調達性に加え、高度な有機合成化学の専門性による独自の合成ルート設定力です。今回のケースでは、シクロヘキサノン中間体の芳香化によるベンゼン環の構築という合成戦略(逆合成解析)が鍵でしたが、この事例は弊社の強みであるフッ素化学・有機合成化学の高度な専門性を示すものと考えています。

以上のように、フッ素原料に関する当社ノウハウ・調達性に加え弊社独自の合成ルート設計力により、位置選択性およびコスト面で課題となるケースに対して有効な選択肢を提供し、医薬品・農薬分野における複雑な含フッ素化合物のプロセス開発および商業生産を支援しています。

参考文献

※1 特許番号:WO2019021889

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